焼き網ひばち

ブルーアーカイブ二次創作文章など書きます。

御鮫祭

御鮫祭


お祭り運営委員会の朝比奈フィーナが山深くの村へ到着したのはある夏の昼下がりのこと。林業用ロボットの作動音が遠くに聞こえる寂しいバス停にフィーナちゃんがひとり降り立ったのはすべて明日開かれる村祭りの為であった。

奇祭『御鮫祭』おんさめまつり。御神体を囲み村を練り歩くお祭りである。オンサメサマ、オサメサマ、サメサマなどと呼ばれる御神体はどういう訳か内陸の山中にあって正に鮫を象っている。オンサメサマは石から始まり大木、竹、土器、代々素材を変えて現在ではサメロボを引っ張り回すのだが、お姿は古来から一貫して鮫のまま。オンサメサマは変わることのないオンサメサマなのである。

「フィーナちゃん、ようこそいらっしゃいました。歓迎いたします。ニャ」

バス停には可愛らしい猫獣人が客人の到着を待っていた。キュート!取って付けた語尾のニャよりも案内猫ちゃんを包むワニを模したかぶり物が目を引いて、いかにも浮かれきったお祭り風情を演出してやまない。過ッ疎過疎のド田舎道とのギャップがもうたまらなくハレである。不安を覚えるレベルで山深い村だからこそ、日常からはみ出したお祭りの気配がその大小を問わず際立って滲み出してくる。案内猫ちゃんの後を舞うように歩きながらフィーナちゃんは実感を深めていく。本当に明日はお祭りなのだ。


猫ちゃんに連れられて到着したのは本日から二泊三日のお世話になるお宿。旅のお楽しみの一つである。キヴォトスでは百鬼夜行連合学院周辺にその建築様式の名残が見られるが、すっかり珍しくなってしまった純和風な古民家がガッシリどでんと夏の真ん中に迎えてくれた。

ニャーンと呼べばニャーンと応える。お宿までもう到着したも同然の路上から案内猫ちゃんがニャーン。すると古民家の開け放たれた玄関土間の暗がりからニャーン。夏の陽射しに新たなワニ出現、玄関を出てお庭へとすぐに姿を現したもうひとりのワニかぶり猫ちゃんがニャーン。案内猫ちゃんとこの猫ちゃんふたりでタスクを回すアットホームなお宿です。いらっしゃい、フィーナちゃん。

当たり前のように清潔で穏やかな和室へ案内されて一人きり。荷物を置いて服をちょいと緩めてお茶を煎れて飲む。
「最ッ高…デス!」
いつもの燃えたぎる炎のようなエネルギーではないが、抑えがたいアルファ波的チルで良きなサムシングが時計の針を回していく。シズコ委員長への定時連絡は圏外。山奥圏外至極当然。あー、まー、ね。絵葉書出しマス。
仕方がないので畳の上で横になり、たっぷり間を置いてから、シャーレの先生への臨時回線を立ち上げる。通信料がべらぼうに高いらしく、ホントにダメな時に簡潔に要件を伝達するよう持たされた秘密道具であった。ホントに、ダメだからさ。いま。

『フィーナ・お祭り運営委員会・無事到着・明日もガンバリマス!炎』

絵文字すら淡白に変換して山間の古民家お宿からキヴォトスはシャーレの先生へメッセージと請求書が飛び立った。オッケー。

「お風呂どうぞー」
まだワニを外さない猫ちゃんが呼ばう声が薄暮れの廊下を通っていく。ゆったりした猛スピードで田舎は暮れるのだ。浴衣はどこだ、お風呂だ、Yeah!お部屋の箪笥を開ければ浴衣があるのだけれど、見慣れないビニール包装も置いてあった。

「これは、お土産…デス。ハイ」

果たしてハッピ、サラシ、フンドシのハイレベルお祭りセットであり、ある種の戦闘服がパリッと包装されていた。フィーナちゃんは今回いつもの装いである戦闘服を自前で持ってきているので、村にスーベニアショップもあるはずがなく自動的に委員長へのお土産が決まってしまったのである。オーライ。

温泉とか贅沢は言わない。するとここのお風呂はお湯が出るシャワー、キレイで広いタイル浴槽、どれを見てもキヴォトスの者であれば文句なしに合格点で素晴らしいお風呂だという結論に行き着くだろう。戦闘ばっかり女子の、時には意味不明に巨大な連中をも相手取り複数ステージに跨がって行動し続ける日々。そこにきてほっこりできる普通のお風呂はご褒美です。


田舎の暖かいお風呂。なんてことはない普通の、湯気が漂う飾らない天井。このあとお夕飯を頂いたら寝るだけの気楽な感じ。涙が溢れて人生が変わる体験のちょうど正反対の、故に同じくらい貴重で尊い夏のお風呂のひとときに鼻歌なんか歌っちゃいながら。フィーナちゃんぽっかぽか。



夏野菜の肉巻き!
トリササミの蒸し物!
田舎のお味噌汁!
お魚の塩焼き!
かまどの白米!

はい、晩ご飯!タンパク質もしっかり摂れる田舎を自慢気に猛プッシュした囲炉裏の似合うステキお夕飯。
猫ちゃんが肩肘張らずに作っちゃったけどはい、ご馳走!旅先での美味しいもの、これがなきゃ人類は旅というものに価値を見出したかアヤシイものである。

お酒はタンパク質の吸収を阻害する以前に囲炉裏を囲むメンツが美少女と猫ちゃんだからここには存在しない。ありません!

さすがに日も落ちたので猫ちゃん達もワニの被りものは脱いで畳んでまた明日。ワニがなくてもご飯は美味いし夜は更ける。その代わりフィーナちゃんのお部屋の前にはおニューのサメパジャマが配備されるサメっぷり。古語のレベルではワニもサメも同一で、神話を紐解けばナメたウサギをタッグマッチでK.O.したのがワニとサメ。古代のリングにゴングが鳴り響いてから時は流れこの夜このお宿に作務衣とパジャマ、ホストのワニとゲストのサメが交差する。

神話を持ち出すにはのんきが過ぎる神秘のサメパジャマに袖を通したかどうかはフィーナちゃんの報告書には記載がないが、奇祭からフィーナちゃんが帰還した直後から夜な夜な舞うように歩くサメの目撃談がキヴォトスで囁かれる事となる。『百鬼夜行の歩くサメ伝説』の噂は現在もヒマ人集団もといシャーレが調査中である。

することもないので虫の声を聞きながら、たまに遠くでシカも鳴く田舎のサメな夜に包まれて、フィーナちゃんの意識がフトンに吸い込まれれば朝が来る。そう、朝が来てしまう。

お祭りだ!

のっけからの爆音花火5連発は朝5時!イナカノマツリ!直後にイベントがあるわけでもないのに、明らかにフライングのタイミングが正統派。

一発目の爆音が鳴って二発目にはフィーナちゃんのお部屋のフトンは綺麗に畳まれて、持ち込んだ愛銃たるマシンガン『仁義なき撃ち合い』を構えて戦闘態勢を取るフィーナちゃんが神経を尖らせる。円盤型マガジンが障子越しの柔らかい朝日に照らされてキレイ!それより輝いてるフィーナちゃんの金髪に桃色メッシュがすごく良い。はらりと、情熱的な、セット前の寝起き御髪!!

突如の爆音に対してキヴォトスに生きる少女の宿命で飛び起きたフィーナちゃんだが、お祭りを愛する少女の宿命もすぐさまフィーナちゃんに正確な状況判断を促した。これは、アレだ。

「花火デス!…お祭りデス!!」

花火の4発目には一切の警戒も解かれ最後の花火の余韻が消えてしまえば横たわる暇な時間。覚醒した意識はオンサメサマ起動までソワソワする夏の朝に放り出されて、ヒグラシだけが鳴いている。お散歩が捗るのはそんなタイミング。

早朝のお散歩は涼しくて、何にもない田舎道には夏の風情が詰まっているとかいないとか。朝露。てくてく。フィーナちゃんが畦道を林道をひび割れたアスファルトを歩いていく。青い空に浮かぶ雲が流れて、そのゆったりした速度は凝り固まった暇がほぐれて散るのとおんなじ速さ。


シャワー!
んで、お赤飯!御味御汁!
海苔!お漬物!焼き魚!
トリササミの蒸し物!!

お宿に帰ってからはお祭りに向けサメエンジンが掛かっていく!猫ちゃん達もワニ猫ちゃんモードでぴんぴん動く!!

午前中はお祭り準備!風見鶏型ニワトリロボ(Mk-Ⅱ “Syamo”)が鳴く頃には本格的に村全体が動き出し、フィーナちゃんはしっかりと見学に出動。村に住み村祭りを主導する世話役猫ちゃん達にアイサツを済ませて、みんなで村の中枢の神社へ参る。

石段を登った先の本殿らしき建物と、その奥にもお社。ところ変われば神社も変わる。建築様式は様々あるのが世の常で、猫獣人の村ならなおのこと。とにかくここがこの村の神社であることに違いはない。お社には『コア様』と呼び慕われているスパコンが安置されていた。状況はグリーン!定期メンテナンスのおかげさま!運営様へ圧倒的感謝!!

コアちゃんのご機嫌を確かめたら場所を移して村の公民館へレッツゴー。移動は猫ちゃん仕様の軽トラック。頼もしいこのビークルは猫獣人にとって特大型でも分類は軽トラ!荷台へみんなでわらわら乗り込んで村を駆ける。夏の風がもふもふ揺れる和毛の背中を撫でていく。

到着しても準備だ準備、お祭りの準備は忙しい。次はいよいよ公民館の押し入れの主にして御鮫祭の主役『オンサメサマ』とご対面!!
当代のオンサメサマはサメロボなので、充電バッチリの専用バッテリーを接続。後頭部にあるLEDが緑に光るのは元気一杯のサイン!一年に一度の起動にオンサメサマもゴキゲンなご様子。起動してすぐ文字通りのサメヒレアンテナがコアちゃんと通信・同期を始めるとLEDは点滅しオンサメサマが電子的に唸る。

聞こえるだろうか、かつてダイヤルアップ接続音と呼称された厳かな電子音が。

田舎の奇祭がスタンバイを終える音が。

ただしオンサメサマとコアちゃんはこの村特有の“てくのろじー”により繋がれており、その絆と既存の通信技術とは一切の関係は存在しない。無いったら無い!


公民館で起動したオンサメサマは軽トラに積まれて神社の隅でスタンバイ!

神社には見知ったお宿のワニ猫ちゃん達が指揮を執って動き回っており、境内の隅で村人来賓フィーナちゃんみんなで囲むお昼ごはんの支度が進む進む。


簡単なお昼ごはんを摘まみながら世話役猫ちゃん、ワニ猫ちゃん達の話を聞くに、このあと隣村から神主猫さんを招いてのご神事奉納が待っている。神社にギャラリーがどっと集まってから祝詞を上げた後、村人猫ちゃんの若い衆が奉納のサメオドリを披露するとのこと。オンサメサマが動くのはその後で。代々の猫ちゃん達が守り続ける伝統的な一連のストリーム。ご神事の厳格で丁寧な積み重ねを遠くから眺めたものがお祭りと呼ばれるのだ。

言葉の通りギャラリーがどんどん集まった頃に神主猫さんの姿が見えて、あっという間にお祭りが始まった。

ギャラリーを境内に残し、フィーナちゃんは世話役猫ちゃん達と一緒に本殿らしき建物への階段を上って板張りの床へ並んで座る。座布団は丸いやつ。ご神事の始まりをもって神社の空気がきりりと緊張したのがわかり、改めてお祭りの持つパワーを肌で感じ取ったフィーナちゃん。


これは、静かですが、でも。
ゾクゾク…しマス!


隣村からお越しなさった神主猫さんが静かに階段を上り、フィーナちゃん達が座る板の間を奥へと進む。御幣を手にニャムニャム唱える祝詞は意味の理解を阻む難解なものであったが確かに厳かな響きを持っていた。音声解析に掛けるとたちどころに解析機器が煙を上げて動かなくなる程度にはエネルギー溢れる有難いお言葉らしい。神主猫さんはどんどん祝詞を唱えてまわる。最奥に祀られるご本尊に向かって、外に出てコアちゃんのお社の前で、その足でオンサメサマへ、また建物に戻ってきて世話役猫ちゃんへ、もちろんフィーナちゃんにも。御幣をぱたぱた振って、一通りの祝詞を唱え終わると葉っぱを取り出してご本尊にお供え。何の変哲もない葉っぱでも、恭しく取り扱われている故にとても有難い葉っぱに見えてくるご神事あるある。


最後は集まったギャラリーにもぱたぱた大きく御幣を振って、一区切り。神主猫さんはしずしずと外に出ると、最初から最後まで厳かなまま帰って行った。


奉納のサメオドリが始まる。


笛と太鼓に誘われて
山を登ってサメが来る
村中に落ちる牙がまた生えて
ヒレが鳴って口が開く

めでためでたや
オンサメサマの
やまのぼり

めでためでたや
オンサメサマの
がけくだり


今や境内は笛の音が太鼓のリズムが猫の声が賑やかに弾みっぱなし。
たくさんの猫ちゃん達に囲まれて、境内の真ん中では若衆猫ちゃん白熱のサメオドリ。サメ頭の被り物と唐草模様の布で大鮫を現して、それを若衆猫ちゃん達がかぶって踊るがサメオドリ。

鈴の音、蝉の声、鎮守の森が作る木漏れ日、奇祭の熱気を渡る神社特有の涼しい風。フィーナちゃんの五感すべてが夏のお祭りに包まれる。燃え上がってくる。

Foooo!
サイコー!デス!!
本当に、来て…良かったデス!!!



サメオドリのラストは『狂い』と呼ばれるパートで締めるのだが、ラスト付近でサメがガスボンベを飲み込む大胆アレンジが加わって否応なしにその場の全員の期待が高まってしまう。


ボンベを飲み込んで尚の大暴れ!乱れ狂う大迫力のサメオドリは熱狂のバトンをフィーナちゃんに託して、無事お仕舞い。


そう、例年以上に盛り上がる今年のサメオドリ奉納はフィーナちゃんにも大役あり。出番が終わったと思われた愛銃『仁義なき撃ち合い』を携えてフィーナちゃんが登場すれば神社は大興奮!!


ここからがボンベだ!石段を登って至る伝統的な高所に建つこの神社からは、急峻な斜面を越えた少し先にお誂え向きな広場が見下ろせる。


サメ!いつの間に設置されたのか、見下ろした広場の中心には遠目で見てもサメだとわかるオブジェクトがフカヒレおっ立てて待機なう!ご丁寧にその土手っ腹にはブルズアイめいた赤い印まで描かれている。肉球の形をしているのがご愛嬌!

先ほどまで太鼓が打ち鳴らされていた櫓さえ、よく見れば絶好の射撃ポイントに建てられているではないか!不思議!


櫓に登ったフィーナちゃんが叫ぶ!

皆サン!
行きマショウ!一緒ニ!!

3!
2!

1!


大爆発!!サメ大爆発!!!
揺らめく陽炎をも吹き飛ばす歓声あげてみんなで大フィーバー!目出度いどっかん御鮫祭!遠くに吹き飛ぶサメを見下ろして神社の隅、スタンバイを続けるオンサメサマは何を思う。後頭部LEDの5回点滅はス・バ・ラ・シ・イ!のサイン。

奉納のサメオドリが終わり、ギャラリーの特に仔猫ちゃんズ中心におやつが配られて神社はひと段落。ひとまず一同は解散して、みんなそれぞれお家に帰る。
でもフィーナちゃんと世話役猫ちゃん達のお祭りはまだ終わらない。オンサメサマの出番がついに来た。

オンサメサマをお祭りっぽくデコった荷車に載せてガヤガヤ、ニャンニャン、時に中だるみしたらダラダラと、今年はフィーナちゃんの熱い空砲も気まぐれに加わって楽しく村中を練り歩くのだ。

村の舗装された道、ヤバ傾斜の坂、ワイルド剥き出しの地べた、なぜか田んぼのど真ん中を突っ切って、オンサメサマの一団は夏のド田舎欲ばりセットロードを進む。

村人にお祝い事があればその庭先にオンサメサマをぶっ込んでヨーホー!ノリに任せてお庭を往復して笛と太鼓とサメにマシンガンで賑やかにお祝い!希望があればお家の中で若衆達がサメオドリも披露する。ひととおり暴れた後は庭先に用意された麦茶やスイカ、軽食とお菓子にチュールを手にしばし談笑してまた嵐のように次のお家へ。

村中を廻り今年は6軒のお家へ突撃しての大暴れにオンサメサマも大満足。夏の空はすっかり黄色に染まり、いよいよ御鮫祭も締めのイベントに突入する。

見上げれば神社、見下ろせば広場。ここは神社の対面に位置するそこそこ高い坂の上。村一周を果たして帰ってきたオンサメサマの最後のステージ。

オンサメサマがけくだり!

待っていたのはキャタピラだった。当代オンサメサマ専用パーツのキャタピラが坂の上の発車台にて準備を終えて佇んでいる。空は刻々と黄から茜へ色を変えていく。

お空の事情は知らないが、オンサメサマのLEDはまだまだ元気バッチバチのグリーンをキープ!フィーナちゃんも手伝ってみんなでわいわいオンサメサマをキャタピラにどーんと乗せれば準備はOK!

最後の場所、先ほど大爆発したサメオブジェがキレイに片付けられた広場の中心へ向けて、夏の終わり、御鮫祭の終点へ!


乗っても良いんデスカ!?

偶にがけくだり真っ最中のオンサメサマに乗る猫ちゃんがいること。それで怪我しても何故かどの猫ちゃんも嬉しそうに病院へ運ばれること。などなどオンサメサマのドッキング作業中に聞かされた笑い話にフィーナちゃんが食いついた!燃えるお祭り魂がさらに爆発してしまった!!まわりの猫ちゃんが特にお宿のワニ猫ちゃん達が止めるも熱く滾ったフィーナちゃんは燃え盛る!


フィーナ、オンサメサマと共に行きマース!!

搭乗なんて想定されていないのでシートベルトはついておらず、フィーナちゃんはフィーナちゃんで尊いヘイローを指してヘルメットデス!と言い張るからもう、ダイレクトにフィーナちゃんonオンサメサマで強引に発進準備を終わらせて、発車コール!!!


物理法則に従って猛スピードでオンサメサマとフィーナちゃんが崖を滑り降りる。滑り落ちていく!

Hooooo!

ヨーーホーーー!!

過去最大に重量を持ち、過去最高に喧しいオンサメサマがLEDを点滅させてのがけくだり!

坂の上とがけくだりコース沿いに再び集まったギャラリー達の大歓声と一部猫ちゃん達のフィーナちゃんを案ずるドキドキとハラハラに包まれて、茜空の下を突き進むキャタピラ。例年の停止位置をだいぶ過ぎて勢いは止まり、喝采の中で今年のお祭りも終わりかと思われたその時。


御鮫祭はまだ終わらない!
キャタピラが唸る!オンサメサマのLEDが赤と緑に交互点滅!
ここでフィーナちゃんの目が戦場でのそれに変わり、魂は赤熱して焔立ち、叫ぶ!!


Hya///hhhaaaa!!!!!!!


オンサメサマとフィーナちゃんの進行方向は急峻な斜面というかほぼ崖である。その先には神社。故に鎮守の森の木々や岩がたくさん突き出し転がっている。

オンサメサマのキャタピラはがけくだりを想定しているので自走機能なんて無いはずなのに、製作者も知らない機構が唸りを上げて加速する。

物理法則に反旗を翻してフィーナちゃんとオンサメサマが崖を捉え、駆け上っていく。前代未聞のがけのぼり!自走機能が存在しなければトルクもレッドゾーンもありゃしない。それでもキャタピラは崖に喰らいつき回り続ける。フィーナちゃんの体幹はのしかかるGを跳ね返して、力強いニーグリップでがっちりオンサメサマと人鮫一体!神懸かり的コントロールを披露してオンサメサマをエスコート!!

枝をくぐり抜け大木を躱し、岩を跳んで崖を制するがけのぼり!こんなお祭りみたことない!!

トドメの大ジャンプを決める頃にはこの世の終わりかのような赤黒い夕暮れが空を染めていた。


着地。コアちゃんの祀られる社の前にびったり横付けで今度こそ停止したキャタピラ。

オンサメサマの赤LED4回点滅はタ・ダ・イ・マ!のアイサツ!続く緑5回は感謝のサイン!ア・リ・ガ・ト・ナ!

「ありがとうございマシタ!オンサメサマ!!本当に、素晴らしいお祭りデシタ!!!」

興奮状態のフィーナちゃんがオンサメサマにハグを決めて、ケガもなく、今年の御鮫祭も無事お仕舞い。終点が神社、それもコア様の社の前というだいぶデカい奇跡を起こした今年の夏は伝説として語り継がれることだろう。


夜の神社に照明焚いてニャンニャンがやがや後片付け。オンサメサマは公民館へ戻されて、ゲストたるフィーナちゃんも帰っていいのに明日には村を発つこともあり、お世話になった猫ちゃん達に挨拶しながらお手伝い。だいたい済ませたら後は後日ということで、はい解散。

世話役猫ちゃん達と一緒にみんなで夜道を歩くフィーナちゃん。御鮫祭奇跡のフィナーレに賞賛を頂くも、すべてみんなのおかげさま。これだからフィーナちゃん良い子。種族の別なく世話役猫ちゃん達からもフィーナちゃんは良い子のお墨付き!

お宿のサメ猫ちゃん達は一足先にお宿に戻ってご飯にお風呂といろいろ準備。フィーナちゃんとワニ猫ちゃん達ふたりの分にしては盛りだくさんのお料理を張り切って仕込む仕込む。どんどん仕込む。まだ仕込んでる。


みんなのおかげで安全無事にお宿に戻ったフィーナちゃんはすぐにお風呂へ案内されて極楽気分。いい感じの湯上がりフィーナちゃんがお部屋に戻り今日の絵日記もとい報告用レポートの要点をまとめていると、俄に玄関が騒がしくなってくる。何故かお祭りの気配すら漂ってくる事態にじっとはできず浴衣のままお部屋を飛び出せば、先ほど別れた世話役猫ちゃん達や若衆猫ちゃん達まで御鮫祭の関係者がずらりお宿に勢ぞろい。


御鮫祭あとまつり。

お宿の奥の広い座敷を解放して、みんなでニャンニャン食べて踊って楽しく過ごすつまり宴会。

猫ちゃん達に呼ばれる前に現れる、さすがお祭り大好きフィーナちゃん!!

リラックスした浴衣のまま、既に騒がしい座敷へエントリー!MVPの登場に惜しみない拍手が止まらない。


いよっ、フィーナちゃん!!!



御鮫祭はまだ終わらない!