焼き網ひばち

ブルーアーカイブ二次創作文章など書きます。

帰り道

キヴォトスは夕焼けにも不思議な線が走って伸びて、くっついてるのか途切れているのか同心円状に二重、三重、間隔を開けてお行儀よく浮かび続ける。

お空の線も気まぐれなのか日によって寂しいほど少なくなったり、その時は目一杯の間隔をこさえるので遠く最後尾のフロンティアは霞んでしまって観測出来ているのかはたまた目の錯覚なのか空に溶けてしまって、有るのか無いのか判断が難しい。気合いを入れすぎてぎっちぎちに詰まっている様子を水鳥なんかに苦笑される日もあった。なにせ不思議な線なのだから本数だって減ったり増えたり自由にやっているのだろう。

それでも刻一刻ミクロにマクロに四季折々変化を続けるお空の風情は趣は何に遠慮することなく空模様そのものとしての存在感をキヴォトス中に示し続けて、特徴的で自由で不思議に浮かぶ線さえも単なる背景のひとつに収めてしまう。


「手、繋いで帰ろ」

シャーレのゲヘナ星2つ、すなわち獅子堂イズミ、愛清フウカの帰り道はあかね色に輝きを増し、すぐにでも暗い影が落っこちてくる寸前ゆうやけピークの真ん中にあった。

「ん。」

イズミっちが言い出して、フウカちゃんが手を差し出して、イズミっちがふんわり包む。定めたわけではないけれど真理のように決まったかたち。ぎゅっと握った帰り道の様式美。

シャーレで被る猫の皮、ゲヘナで付ける獅子の爪、いろんなものはゆうやけに置いてきてふたり一緒に繋いで帰る。

大好きのひとつはお互いが今握っているから大丈夫!もうひとつ、ふたりの次なる大好きはそう、ごはん!

最初は利害の一致なんて感じるくらいドライにごはん!ストイックに作る・食べるためのごはん!ごはん!ごはんライクな関係性から始まった二人。

個人的アジトという名のやりたい放題なキッチンあるよ!ジャンル不問で美味しいごはんを作れます!じゃあ一緒に崇高なごはん体験のその先へ!!

人間関係は一緒に過ごす時間によってとんでもない反応と爆発が起きる、そのことを崇高なごはん体験に目が眩んだ若いふたりは知らなかった。確かに二人で築くごはん体験はお互い満足がいく素晴らしいものという実感がある。

しかしそれ以上に!“ごはんパートナー”なんて乾いた関係でいることにお互いが我慢出来なくなっていた。

自覚したのは同時だったようで、シャーレでばったり出くわした時のお互いの火照りようは憎いくらいに嬉し恥ずかし今すぐにでもごはんを作って食べたくなって、それが可笑しくって笑いながらシャーレのど真ん中でハグをした。

ゲヘナの伝統的アイサツだから!気にしないで!!高らかにホラを吹いて笑い泣きしながら、ぎゅーっと力いっぱい。その日のこと全体的にはあまりよく覚えてはいないけれど、きっと忘れられないだろう。お互いの温かさ柔らかさ、こみ上げる幸せ、すべて、すべて。



食材を買い込めば
あたりはずいぶん暗くなり
手を繋ぎなおして
夕暮れに浮かぶ不思議な線に空目した


ーあの日、何を作って食べたっけー



おわり